睡眠時無呼吸症候群

身体に明らかな異常を感じるのに、血液検査やレントゲン撮影などの医学的方法で調べても「医学的には異常はありません」と言われて、途方に暮れるということはしばしばある。そういう時、便利なのは「自律神経失調症」という言葉だ。言われた方は、「あーそういう病気なのか」と納得するしかないが、治療法になると、「ビタミン剤」「安定剤」「漢方薬」などが処方されてお茶を濁される事が多い。この自律神経失調症なる病名は、内科領域ではしばしば、使われるが、精神科ではまず使われない。私は、「自律神経失調症というのは独立した病名ではなくて、自律神経機能に変調を来す何らかの問題の結果として起こる現象なんですよ」と分かったような分からないような説明を必死でしてしまうが、当事者としてみれば、症状を軽くしてもらえるなら能書きはいらないだろう。

この自律神経というくせ者は、身体の中で大変重要な役割を果たしているのに、測定して数値として示すことが大変難しい。測定方法としては、起立テスト(身体を臥位から立位にしたときの血圧反応)、心拍変動(一拍ずつの間隔のばらつきの大きさ)が用いられてきた。しかし、その結果から、シャイ・ドレーガー症候群とか、糖尿病合併症としての神経障害などは診断できても、心理的要因によって自律神経にどの程度の異常が生じているかは分かりようがなかった。それに、人は生き物であるから、環境、出来事によって瞬時に身体は変化しているのである。病院での短時間の状態が分かったとて、普通の生活の中でどうなっているのかは全くわからなかった。本当に知りたいのは、その人が生活している中での変化なのに。

上述したように、心拍変動は自律神経の働きで変動することは分かっていた。しかも、コンピュータの発達により、変化の中のさらに細かい要素まで分かるようになってきた。「1/fゆらぎ」という言葉は聞いたことがあるだろう。「自然界には1/fゆらぎがある。人が心地よいと感じるものには1/fゆらぎがある」などというものだ。そういったゆらぎの周波数を解析できるようになり、心拍変動はいくつかの周波数の揺らぎが混ざってできていることが分かってきた。さらに、その周波数成分が、交感神経の働き、副交感神経の働きを表現していることが実証されるにいたった。

それを利用して、自律神経機能を測定することが、ちまたでははやり始めている。民間で自律神経機能を測定しますと銘打っているものは、ほとんどそれを利用している。通常、その検査は、その場所で数分間の測定結果で評価されるが、明らかな異常がある人はそれでも異常がでるであろうが、環境、状況で異常反応を示していることは評価できない。しかし、この方法の良いところは、小型の機械で、24時間心拍変動を測定記録すれが、日常生活の中での自律神経機能の変化がわかることである。

当院では、この「心拍変動」を自室神経機能評価の最大の武器と考え、3分間測定で評価するタイプの機械と、24時間測定で日内変動を見る機械を使い分け、動的な身体的情報を得て、治療にそれを反映させていくことを試みている。

次に、心拍変動について、もう少し詳しい説明と、臨床への応用について説明する。


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