虚血性心疾患とA型行動パターン(TypeA)

虚血性心疾患とは、狭心症や心筋梗塞に代表される疾患であり、心臓の筋肉に酸素や栄養を供給する動脈(冠動脈)の狭窄(動脈硬化やれん縮)によって引き起こされる疾患です。

タイプAとは、1959年 米国循環器病学者であるFriedmanらにより提唱された「虚血性心疾患の発症と密接な関係がある行動特性」のことです。その内容は「仕事においても余暇の時も競争心が強く、いつも時間に追われている感じがあり、絶えず物事を達成する意欲をもつ」一連の行動パターンです。具体的には以下のような行動特性が上げられます。

@言葉が早く語気も荒く、家族や部下にも当たり散らすことが多い。

A食事のスピードが早く、食後ものんびりすることが少ない。

B相手の話し方が遅いときや、前を走る車が遅いときなどイライラしやすい。

C同時に二つ以上のことを平行してやることが多い。

D時間に追われている感じが強い。

E自分や他人の行動力を質より量で評価することが多い。

F朝早くから夜遅くまで、または休日でも仕事をすることが多い。

この概念は米国で提唱され研究されてきたので、文化・価値観の違いがある日本人には当てはまらないかもしれません。そこで日本人における同様の行動特性の有無を調査するために「TABPカンファレンス」が結成され、研究が積み重ねられてきました。

A型行動パターンを構成しているのは「攻撃性・衝動性」「仕事に対する熱心さ」であり、米国人では前者が、日本人では後者が優勢といわれています。また「仕事に対する熱心さ」も発生起源が異なり、米国人では「業績達成志向性」に裏付けられたもので、日本人では「会社や職場に忠誠をつくす類のもので、日本的マゾヒズムに基づいている」といわれています。

普通に考えてみれば、こういう行動特性の方は、身体に過剰な負荷がかかり、心理的にも常に負荷がかかっていることは容易に想像がつきます。ただ、内容を見てみると、それが特別なこととも言い難く、そういう人は身近にもいるな〜と思われるのではないでしょうか、それに、そういう人がみんな心臓病になるわけではない。ここが、難しいところです。

虚血性心疾患の危険因子は高血圧、喫煙、高コレステロールなどと同様に危険因子の一つというわけです。決してそれだけで病気になるわけではないです。

この行動特性はうつ病の発症とも関係していると言われているため、そういう傾向があるな〜と感じる場合は注意しましょう。

タイプA傾向判定表 さああなたもチェックしてみましょう。

私の雑感

日本的A型行動パターンもこうしてみると、過去と現在では変わっていくのかもしれません。高度成長期には会社に対する忠誠心から自己犠牲的に働く人も多かったことでしょう。「ジャパニーズビジネスマン」といってリゲインの宣伝が流れていたころが、その時代の最後だったのではないでしょうか。

働き過ぎの突然死ということは今でも認められ、労災認定がなされるようになったのも事実です。しかし、そういう人が増えているとは思えません。サービス残業と言われていたものに、法的に賃金をまとめて支払うようにとの判決が出されたことから見ても、日本の文化・価値観も時代とともに変わっていくのでしょう。そうなると将来的には虚血性心疾患の発症がへっていくのでしょうか?それ以外の危険因子の影響もあるからそれほど単純ではないですけどね。

それと、虚血性心疾患を心身医学的に考える上で、米国の循環器専門医ディーン・オーニッシュの研究を忘れてはなりません。彼はタイプAのように何か心臓病特有の因子を見つけようとしたわけではありません。そのあたりのメカニズムについては彼の推論なのですが、彼は、心理的要素と食生活を含めた生活様式を変えることで冠動脈(心臓の筋肉に栄養を与える血管)の狭窄(動脈硬化)を改善できることを科学的に証明しました。(Ornish D, Brown SE, Scherwitz LW, Billings JH, Armstrong WT, Ports TA, McLanahan SM, Kirkeeide RL, Brand RJ, Gould KL. Can lifestyle changes reverse coronary heart disease? The Lifestyle Heart Trial. Lancet 336:129-133, 1990.)

オーニッシュについては極端なベジタリアンの食餌療法や運動療法、ヨガなどリラクゼーション法が有名ですが、彼の特筆すべき点はグループを利用した心理療法にあると思います。彼は「心(heart)を開くと心臓(heart)も開く」と言っています。そして、心を開くのに一番大切なのは愛、親密さであると言っています。参考

上記のタイプA行動パターンをみると、精力的で強そうなイメージが浮かびますが、オーニッシュは心臓病になりやすい人には親密さへの恐れがあるといっています。それをおそれるがゆえに、一人で抱え込み、目的に向かってばく進し、常に高いレベルを達成しないと満たされないというわけです。タイプAの研究でも、それは自己愛の病理であると言われています。

ですから、その改善には、心理療法がもっとも重要であると思うのです。しかしながら、あわただしい現代、あわただしい生活を送るタイプAの人に悠長な心理療法は難しいです。それに、心臓疾患の治療は、ますますもって、ハイテク化されているので、治療にそういう要素が入り込む余地は、はっきりいってないでしょう。せいぜい、「ストレスをためこまないようにしましょう。時間にゆとりをもちましょうね」とかいう陳腐なアドバイス程度になってしまうでしょう。

きっと、世の中全体が動脈硬化を起こしていて、本当に必要なのは人々全体の親密さを回復することなのでしょうね。

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