日本心身医学会の心身症の定義(1991)

心身症とは、身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する。」

 

学会では上記のように10年前に定義をしましたが、現実はそれほどクリアカットにいくものではありません。人は心と身体の統合体であり、どちらかだけが病むものではないという観点から言えば、すべての疾患は心身症であると言えます。

心と身体の統合体である人体が病んだとき、その心理的要因を視野に入れながら身体症状を治療していくのが心療内科の仕事です。

本来の心療内科の仕事は、通常内科疾患と言われている病態に対して、身体的メカニズムの追求だけではなく、心理的要素がどう関わっているかを解明し、心身両面から治療に当たることです。もちろん、そういった治療が、通常の内科的治療よりもよい結果を生み出さなければ意味がないわけですが。細かい話になりますが、人間の心理的働きがどのようにどの程度身体に影響するのかはまだまだ分かっていません(極端な話では心のありようでガンになるという人すらいます。あるいはガンのイメージ療法というものや、有名な話では重症の膠原病を笑いで克服したという「ヘッド・ファースト」という著書で有名なノーマン・カズンズという人の例があります)。性格傾向が病気の原因になるのか、ある種の自己暗示が疾患の原因になっているのか、などなど心身医学が取り組んできた心身の謎は未だに謎のままです。

ただ、現代医学の進歩はめざましいものがあり、薬物療法や技術的進歩によって、多くの疾患はコントロール可能になってきました。効率重視の現代社会においては、効果のはっきりしない、しかも時間がかかる心療内科的な内科治療より、通常の内科的治療が優先されるのは当然といえましょう。

かつては喘息の治療に、自律訓練法や精神療法が行われていました。その中には、現代ならステロイド剤の吸入でコントロールできた人もいたかもしれません。

そうなってきますと、心と体の両面から治療に当たらなくてはいけないのは、内科疾患をもっているが、性格的、あるいは精神病理学的に何らかの問題があって治りにくい人だけになってしまいます。そこで注意が必要なのは、そういった極端な例だけが心身症、あるいは心療内科的疾患ではないということです。元来心身の統合体である人の中では心の営みと身体の反応が相互に影響しているわけですから、症状、疾患を考える時に、その関係性を念頭に置きながら理解するのが当然と言えます。その当然のことをしようとしてきたのが心身医学であり、すべての疾患において心身医学的な理解が大切であると考えているのが心療内科であるということです。

よく誤解されているのが、人間は身体的に病めば、心も弱ってくるので、身体的治療だけではなく心の状態にも気を配って治療にあたるべきであるということとか、あるいは心理的な問題を抱えていれば身体の調子も悪くなるので、心理的治療と身体的治療を同時に行うのが心療内科であるというものです。それは広い意味で言えば心療内科的な課題ですが、厳密に言えば前者はリエゾン精神医学であり、後者は精神科疾患に伴う身体症状ということです。

すべての疾患は心身症であるとっても、それは哲学的な響きであって、現実的にはピンと来ません。
そこで上の定義のように、心身相互作用を考慮しないと治療ができないような身体疾患を心身症であると便宜的に読んでいるわけです。
例えば一部の気管支喘息は、身体医学的治療だけでも精神医学的治療だけでも改善できませんが、心理社会的背景(個人の心理状態、家族関係、社会状況)を視野に入れながら、身体的治療プラス心身医学的治療をすることで改善されることがあります。そういう疾患は心身症といえます。

また、 神経症やうつ病に伴う身体症状については、いくらそれが強い症状であっても身体的治療によっては改善できず、精神医学的治療によってのみ、身体症状を緩和することができます。従って、それは心身症とは言えません。

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