アレグザンダーの症例

アレグザンダーは1950年ころ心身医学という著書を著した人です。
元々、精神分析医であったため、心身相関の解釈を精神分析的に行いすぎてしまい、かえって非科学的な印象を強くしてしまいました。しかし、着眼点、考え方には大変重要な意味が込められていると思われます。
また、この人が代表的な心身症として、seven holy disease「本態生高血圧、気管支喘息、消化性潰瘍、神経性皮膚炎、甲状腺中毒症、潰瘍性大腸炎、慢性関節リウマチ」をあげました。詳しくはアレグザンダー,F 心身医学を参照してください。

 

 

アレクサンダーの記した事例


アレクサンダーは、最も深刻な環境ストレス要因に対しても、心身の適応が明確に認めら れることを認識していた。それは、バセドー病(甲状腺機能亢進症)のいくつかの例をみ れはわかる。幼少期のストレスがいかに甲状腺を過度に刺激し、心理学的には不安定な早熟を招くかという事例である。

「幼少年期において安心を脅かされることほ、神経症患者にも健康患者にも共通してありう るが、バセド−病患者の特徴は、この不安に対する彼らの対処法にある。先に記したよう な外的状況のため、彼らは親に助けを求めることでこの不安を克服することができない。 彼らの依存の欲求は、運命、親の態度、一方または両方の親の不在、親による拒絶、ある いは罪の意識をともをつさらに複雑な葛藤により、つねに満たされないままである。依存 の欲求が満たされないがゆえに、彼らは背伸びをして、親のどちらか、多くの場合は母 親の役をはたそっと必死でがんばる( お母さんが私のものにならないのなら、私がお母さんのようになろう。そうすればお母さんなしでもやっていける。このように実年齢 以上の人物に自分をなぞらえることは彼らの生理的・心理的能力を越えるため、自立を装って心配と不安を押さえこむための苦闘は、はてしなく続くことになる。


(…)次に記したのは、早く自立したいという欲求が、すすんで家族の面倒をみる、あるいは弟妹の世話をやくという形で現れた例である。・

B.R.(13歳、白人の少女)は母親から「小さなお母さん」と呼ばれていた。非常に早熟で従順、頼りになる子供だったからである。六歳で料理を覚え、それ以来ずっと料理 と家事の手伝いをしてきた。母親が病気の時はいつも家をきれいに掃除し、家族全員の面倒をみた。弟に対しては、二人日のお母さんの役どころをつとめていた。

H.D.(35歳、独身男性、八人兄弟の末子)は、兄弟でただひとり生き残った男子だった。二人の兄はそれぞれ10歳と3歳の時死亡し、弟はこの患者が2歳の時、生後一週間で自宅で死亡していた。父親は自分の弱さと不安を隠すため、とげとげしく温かみに欠けた態度をとる厳しい男だった。子供たちがいたいけな幼児でいる間は愛情をあらわに示して可愛がっていたようだが、歩きはじめ、言葉を話すようになったとたんに大人らしい振舞いを求めたのである。母親は十代の頃に私生児(患者のいちばん上の姉)を産み、 「同情した」患者の父親が彼女と結婚したといういきさつから、夫に軽視されていた。彼女は夫に逆らうことができず、患者の幼児期には数年間夫の店で働いていた。父親はこの母に対しても患者の姉たちに対しても、彼の世話をやくことを許さなかった。患者が小学一年生になると、父親は家族が彼に連載漫画を読んでやることを禁じた。これからは自分で読むことを覚えろというのである。彼には、大人のように振舞わ誇ればならないというプレッシャーがたえずかけられていた。それでいながら、自分の興味のあることを積極的に追求することもつねに制限されていたのである。


E.B.(24歳、非白人の独身女性)は学校に通っていたころはいわゆる神童で、進歩が非常に早かった。極端にまじめで、無断欠席など一度もなかった。母親は教師で「とても知的できれいな人」だった。患者は明らかに母親と張り合っていたのだが、敵意を表に出したことは一度もなかった。母親が病気になった時は二人の妹の世話を引き受け、母親の代役を引き受けた。すでに大学時代から妹たちを経済的に支えていた。つねに自立しており、非常に大きな野心をもっていた。そして学校でよい成績をとり、知的な職業につくために、女性としての望みはほとんど抑制してきた。


この本の中で引用されたインガムの見解( S. Ingham, 1938)

神経学的な概念では、意識とは神経系全体の活動状態あり、とくに脳の活動である。こ れは心の最高の活動から、昏睡や外科手術での全身麻酔状態のようなまったくの無活動まで、量的に変化する。覚醒時の心の活動には脳の全域がかかわっているが、あらゆる心の活動は原始的な脳である間脳[すなわち視床下部]にあるニューロン(神経単位)群の正常な機能に依存しているように思われる。睡眠と覚醒の規則的な周期は、このメカニズムを生理学的に証明している。間脳で放出されるエネルギーは、心理現象に関するかぎり他のすべての神経系の活性化に欠くことができないため、脳のこの部分に意識の「中枢」があると仮定してよいだろう。多くの臨床的、実験的事実がこの仮定の正しさを証明している。成長、本能、情動に関係する神経系の他の原始的な機能は、意識の中枢と仮定された、この部分にきわめて近い脳の基底部にある構造に支配されていることがわかっているがこれは明らかに偶然ではない。意識に関するこの概念が精神医学に適用できることは明らかだと思われる。というのは、意識の量的な変化は、知性、情動、本能的行為に関する行動の乱れとなって現れるからである。